「認知症ってどんな病気」
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講師紹介
田 亮介 先生
医療法人財団青溪会駒木野病院 副院長
演題
「認知症ってどんな病気」
日時
平成30年2月14日(18:30~20:00)
会場
日本生命八王子ビル8階研修室
主催
公益財団法人 日本健康アカデミー
本邦の高齢化の現状
日本は、超高齢化社会:高齢者(65歳以上)が全人口の21%を超えた社会を2007年に迎えている。
寿命の伸長に伴い75歳以上を高齢者とすることも検討されている。
2025年には40%が高齢者(65歳以上)となり、高齢者の5分の1:700万人が認知症になる。
認知症とは
認知症とは、成長により一度、正常に発達した知的能力が脳の後天的な器質障害によって持続的に認知機能が低下して、日常生活に支障をきたす「器質性疾患」:病気。
65歳ごろから認知症になる方が現れ、5歳毎にほぼ倍増し、85歳以上でその割合は55.5%にもなる。
しかし、相当高齢になっても認知が正常な方がいるので、認知症は単なる老化ではなく病気。
- 認知機能とは
- 記憶・判断・言語・計画・遂行
「記憶障害がある」+「計画や段取りができない」+「意識ははっきりしている」
以上の結果として、
「社会生活・対人関係に支障が出る」そして、「脳に器質障害が出ているのであって、うつ病などでは ない状態」
が、6ヶ月以上持続している状態を認知症としている。
歳をとれば誰にでも発症しうる身近な脳の病気です。
・せん妄状態と認知症の違い
せん妄 | 認知症 | |
発症 | 急激に突然 | 少しずつ発症 |
症状の日内変化 |
夜間・夕刻に悪化する | 変化しない |
初発症状 |
幻覚、妄想、興奮、不穏 | 記銘力の低下 |
症状の持続 | 数時間〜一週間 |
永続的 |
知的能力 |
変動する | 変化がある |
身体疾患の有無 |
あることが多い | 時にある |
環境状況の影響 | 影響することが多い | 関係ない |
・うつ病と認知症の違い
うつ病 | 認知症 | |
発症 | 症状が急性・週〜月単位で発症 | 少しずつ発症 |
症状の持続 | 症状の持続が短期で急に進む | 症状の持続が長期でゆっくりと進む |
症状の経過 | 固定的な抑うつ感情や意欲欠如 状況によってあまり変化しない |
感情と行動が変動する 動揺・暗示によって変化する |
質問への答え | 質問に対して「分からない」 という答えや面倒がる |
質問に対して誤った答えや はぐらかしたり怒ったりする |
自分の能力評価 | 自分の能力の低下を憤慨する | 自分の能力の低下を隠す |
認知機能障害 | 認知能力の障害が大きく変動する 最近の記憶と昔の記憶に差がない |
認知機能の障害が一定している 最近の記憶が主に障害 |
症状の日内変化 | 朝から午前中にかけて不調。 午後から夕方にかけて改善する傾向 |
特に著しいものはない |
自殺傾向 | しばしば発生 | 少ない |
思考内容 | 自責的、自罰的、自己卑下傾向 | 他罰的傾向 |
・代表的な認知症
- アルツハイマー型認知症
- 脳血管性認知症:脳梗塞や脳内出血に伴う
- レビー小体型認知症
- 前頭側頭型認知症
アルツハイマー型認知症と脳血管障害を伴うアルツハイマー型認知症が認知症全体の60%
・軽度認知症(MCI)
年齢や教育では説明できないほどの記憶障害があり、本人や家族からその訴えがあるが、日常生活や全般的な認知機能は正常な状態。
・認知症は
認知症は、
正常な老化→前・軽度認知症→軽度認知症(MCI)→認知症
と進行するが、軽度認知症(MCI)までなら、適切な取り組みにより回復が可能。
高齢者の13%はMCIの状態、認知症+MCIで高齢者の四人に一人になる。
MCIは5年間で50%が認知症へ進行するが、適切なトレーニングで正常化もする。
認知症と物忘れの違い
・記憶とは
- 記銘(憶える)
- 保持(忘れないように記憶)
- 再生・想起(必要時に取り出す)
からなる。
・加齢に伴う物忘れ
- 単純な記憶力のピークは20代。その後は経験や体験から学び50歳ごろまで伸び続ける。
- 多くの人は60歳ごろになると記憶力に加えて判断力・適応力が衰える。
- 加齢による物忘れは再生・想起の力が衰え、思い出すのに時間がかかる。
これは正常な老化。
・認知症による記憶障害
- 近時記憶の障害:数分〜数日前の出来事を忘れる
- エピソード記憶の喪失:例えば食べた夕食の献立を忘れるということではなく、夕食を食べたこと自体を忘れてしまい、食べたがる。
- 記憶の逆行性喪失:昔のことが思い出せないのではなく、直前のことから忘れてしまい、若い頃から長い年月あったことの記憶・歳をとっているということを忘れてしまう。20代・30代の自分にタイムスリップしてしまう。老齢になった妻を認識できず、若いころの妻の写真を見せると、自分の妻だと認識できる。
退職した記憶がなく、すでに退職した会社に出勤しようとする。転居した記憶がなく昔住んでいた家に帰ろうとする。
加齢による物忘れ | 認知症の物忘れ |
体験の一部を忘れる・語健忘 名前が思い出せない・言葉が思い出せない |
体験そのものを忘れる |
記憶障害のみが現れる | 記憶障害に加え判断の障害 計画・段取り・実行機能の障害がある |
もの忘れを自覚している | もの忘れの自覚が乏しい |
保管した場所を忘れ、 探し物を努力して見つけようとする |
自分が保管したという記憶がなく、 誰かに盗まれたと思う |
時間や場所の認識は正常 | 時間や場所の認識に障害があり、今日が何曜日なのか、自分がどこにいるのか分からない |
体験の中で出会った人の名前など忘れてしまうことがあっても、架空の体験を話すことはない | 忘れてしまったこと自体を認識しないので、記憶をつなぎ合わせて架空の体験を作り出す |
日常生活に支障はない | 日常生活に支障をきたす |
極めて徐々にしか進行しない | 進行性である |
代表的な認知症
・アルツハイマー型認知症
脳の中の神経細胞が死んでしまうことで、脳が全体的に萎縮していく。原因は明らかになっていない。結果的に脳にアミロイドβタンパク質の異常な蓄積があるという特徴がある。70歳以上の女性に多く、進行性の認知症で、特に、近時記憶に関わる海馬と空間的認識に関わる頭頂葉に異常が現れ、近時記憶障害があり日々のエピソード記憶障害・自分がどこにいるのかわからなくなる見当識障害が特徴で、本人の認知症であるという自覚はあまりない。
・脳血管性認知症
脳動脈硬化によって起こる脳梗塞・脳出血、特に小さい脳梗塞が多発した場合に起こる。血流の悪化や改善に伴い急激な発症や段階的悪化、良くなったり悪くなったりという経過がある。脳血管障害の30%〜40%が認知症を起こす。
身体の麻痺を伴うこともあり、脳の一部だけが障害されるので、一部の能力だけが低下して、本人の認知症であるという自覚もある。
このアルツハイマー型認知症と脳血管性認知症はしばしば同時に発症する
・レビー小体型認知症
中枢神経系に多数のレビー小体という小さな構造物が出現して障害を起こす。自由な運動ができないパーキンソン病の症状が出て動作が緩慢・小刻みに歩く・震えなどが起こる。
視覚に関わる後頭葉に障害が出るので、夢と現実の区別がつかない状態、起きているのに夢のようなものが見える生々しい幻覚が現れる。認知機能の障害は、病気の進行が進むと出てきて、良くなったり悪くなったり変動する。本人の病気であるという認識はある。
・前頭側頭型認知症
初老期に起こる、将来を見据えた計画・判断に関わる前頭葉、聴覚・音声・文字に関わる側頭葉に障害が出るので、性格が変わり著しく抑制を欠いた自分勝手な性格になる、同じことを繰り返す・突然帰ってしまう・おうむ返しになる・会話がなくなる。記憶や計算、自分がどこにいるかという認識はある。
認知症の中核症状と周辺症状
・認知症の中核症状
- 記憶障害:
- 最初は、憶える:記銘障害が起こる
- 見当識障害:
- 時間や季節感がおかしくなる。どこにいるのかわからなくなる。人間関係の認識もおかしくなる
- 理解・判断力の障害:
- 思考の流れが遅くなる。試行錯誤が目立つ。同時に複数のことができない・理解できない。
- 些細な変化、いつもと違うことに対応できない、混乱する。
- 実行機能障害
- 計画・段取りができない。今までできた料理が出来なくなる。
このような中核的症状があるが、実際に認知症の方と付き合い、介護することの障害になるのは、認知症に伴う周辺症状:BPSD
・認知症の周辺症状:BPSD:認知症を持つ人々に起こる心理的な反応や行動
認知症患者に接する周りの人の対応で軽くすることができる。
認知症はできるだけ早く軽度認知症MCIや前・軽度認知症の段階で受診し適切な治療・トレーニングをすることで、進行を止め、改善したい。
・家族が気づく初期の症状
- 話に「あれ」「それ」などの抽象語が多くなる
- 元々の人柄がなんとなく変わってくる
- 物事に対して関心がなくなり投げやりになる
- どことなく、だらしなく怠惰的な感じに見える
- 以前より失敗が多くなり、言い訳をすることが多くなる
- 人付き合いを避け、閉じこもる
- 同じことを言ったり、したりする
- くどくなったり、些細なことで怒りっぽくなる
認知症の治療
・抗認知症薬
代表的な抗認知症薬は、脳の壊れてしまったところを直すのではなく、残されている記憶や学習の力を効率よく活用するもの。
記憶や学習に関わる神経伝達物質:アセチルコリンの分解を抑えて、アセチルコリンの量を増やす。
アルツハイマー型認知症の進行スピードを緩やかにすることが期待されている。
・周辺症状:BPSDに対する対応
周辺症状:BPSDは、色々な要因で発生してくるのでその要因を一つ一つ潰していく
色々な要因があるが、意外と脱水、便秘、栄養不良などでも発症する。
認知症者の心理状態と認知症者への対応のヒント
・認知症者の心理状態
- 自分の気持ちが受け入れられること、安心を求めている
- 本能的に「苦」を回避しようとしている
- 思い通りにならないことへの「我慢力」が低下している
- 環境変化には過敏に反応する
- 周囲の愛情に対して敏感にキャッチ、微妙に反応する
- プライドがとても傷つきやすい。喪失体験に敏感
- 自分のペースを固守する
- なんでも良いから「やり遂げたい」という本能的欲求がある
- 生きたいという願望を持つ
- 根底は不自由さに苦しんでいる
決して「わかっていない」わけではなく、自分自身の能力や知能に対する不安・違和感を抱えている人は多い、
だから、認知症者の心理状態を理解した上で、対応することで、認知症者の生活が楽になる。
・認知症者との接し方
- 自尊心:プライドを傷つけない・怒らない
- 説得ではなく、本人の納得がいくように話す
- とにかく本人のペースに合わせる
- 話は、理解しやすいように単純・簡単にする。くどくしない
- 流行語は分からない。理解しやすい言葉を使う
- 関心が目の前にしかないので、本人の近く・正面から話しかける
- 言葉だけでなく、文字や絵を使う工夫も有効
- 言葉以外のコミュニケーション(雰囲気)が大切
- 話の中で、時には現実も提示する
- 本人が良く覚えている、昔話をして、本人に共感することも大切
・例えば
- アルツハイマー型認知症では、通常の人よりも感情に対する反応が敏感になっているので、否定されたり怒られたりすると、否定された・怒られたという記憶はなくなっても、「この人は嫌だ」という感情だけは残るので、その人に会うだけでその感情が蘇る・嫌うようになる。
本人が失敗だと認識していないので、介護をする人が失敗を指摘したり・怒ると本人に強いストレスになり、周辺症状BPSDを誘発することにつながる。 - よく、身近な人:嫁や介護者に大切な物を盗まれたと言い出す。
認知症の方は、大切なもの:印鑑・預金通帳などをしまい込み、しまったこと自体を忘れてしまう。
しまったことを忘れているので、大切なもののありかを知っている身近な人:嫁や介護者が盗んだと訴える。
このような場合は、勝手に探すのではなく「一緒に探しましょう」と呼びかけ、一緒に探す。
身近な人が見つけても、「ほら見つかった」と渡すと、「自分が盗んだから返してきた」と思うので、本人が見つけやすい場所に移動して、本人に見つけさせることで、トラブルが避けられる。 - 認知症者は、話したこと自体を忘れるので、同じ話を繰り返す。
「もうその話は何度目!」「その話は聞き飽きた」と、怒ったり・イライラしてみせると、認知症者は何を言われたかは忘れても、きつい言葉を言われたことに対する「悲しさ」「怒り」「不安」の感情は残ってしまう。
だから、
- 話を合わせるだけで良い、同じ言葉をゆっくり繰り返してあげる。
- 適当に流して話を聞き、そして適度に相槌を打つ:真剣に頑張って話を聴く必要はない
- イライラしない、イライラ感情は必ず認知症者にも伝わる
- イライラしないためには、認知症者の話は、本当のことではなく、架空の物語だと聞き流す。
- 話を合わせるだけで良い、同じ言葉をゆっくり繰り返してあげる。
- 認知症者は感情に敏感なので、言葉以外のコミュニケーションが有効
- 言葉で意思疎通ができなくてもジェスチャーやスキンシップで感情が伝わる
- 微笑む、指差す、優しく抱いてあげるだけで十分に気持ちが伝わる
- 言葉で意思疎通ができなくてもジェスチャーやスキンシップで感情が伝わる
認知症の予防は可能か
まだ確実なことはわかっていない。
・認知症のリスクを低下させる方法
- アルツハイマー型認知症予防のため、脳内のアミロイドβの排出
- 良質な睡眠
- 良質な睡眠
- 神経細胞を活性化させる
- 有酸素運動:1日1時間のウォーキング
- コミュニケーション・おしゃべり
- 知的活動:計算
- 毎日5杯の緑茶
- 脳トレ:頭と手(身体)を同時に使う:編み物、計算・俳句を考えながら散歩
- 柑橘類の摂取
- 毎日の野菜・果物摂取
- 有酸素運動:1日1時間のウォーキング
- 脳血管性認知症予防のため、降圧剤の服用を含めた生活習慣病治療
を続けることが大切