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腰痛に予防には腰痛の原因を知ろう-自宅で簡単予防エクササイズ-

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講師紹介

小山 貴之 先生
日本大学文理学部体育学科 准教授

演題

「腰痛に予防には腰痛の原因を知ろう-自宅で簡単予防エクササイズ-」

日時

平成30年3月7日(18:30~20:00)

会場

日本生命八王子ビル8階研修室

主催

公益財団法人 日本健康アカデミー


ヒトの進化?

平成19年と平成22年に自身の体にどのような症状が出ているか、国民生活基礎調査を行ったところ、腰痛の有訴者数は男性が1位、女性は2位という結果であった。これは今でも変わっていないという。
猿から進化して、人間になりまた猿のような姿勢に為っていくという風刺画が描かれるほど、今の人類は姿勢が悪く腰痛になる人が多い。

腰の構造

脊椎は小さな24個の椎骨の集合体で、1つ1つの椎骨の間には、椎間板がある。椎間板が脊椎に掛かる負担を吸収して、分散する動きをしている。
椎間板は二重構造になっている。中心部分に髄核という柔らかい組織があり、髄核を包み込むようにして線維輪軟骨という軟骨組織から成り立っている。
また、骨の周りを筋肉で覆うことにより、支えられている。



姿勢による椎間板内圧の差、つまり姿勢によってどれだけ腰に負担がかかるかをNachemsonとWilkeが研究した。それによると、姿勢を正して立った状態を100%とすると、少し前かがみになるだけで腰への負担が約200%と2倍近くまで多くなる。姿勢を正して座った状態でも約150%、荷物を持った状態で少し前かがみになると約450%も負担がかかることになる。


腰痛症の内訳


腰痛を主訴として病院に行った患者のうち15%特異的腰痛(原因がはっきりとわかる腰痛)である。主に、椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症、圧迫骨折の患者が多い。

  1. 椎間板ヘルニア
    椎間板内の髄核が線維輪を破って脊柱管内に突出し、神経を圧迫して発症する。
    1. 腰部痛
    2. 臀部痛
    3. 下肢痛
    4. しびれ など
      神経が圧迫している方の足にのみ、症状が発症する。
  2. 脊柱管狭窄症
    脊髄神経が通る脊柱管が周囲の組織の肥厚や変形により狭くなり、神経の血流が低下して発症する。 腰椎圧迫骨折
    1. 腰痛は強くない
    2. 安静時の症状は少ない
    3. 立っていると悪化
    4. 歩いていると悪化
    5. 前かがみになると緩和
    6. 座ると緩和 など
  • 骨粗鬆症に起因し、尻もちをついた際などに椎体前方が骨折する。
    1. 骨折部位の腰痛
    2. 体動時痛
    3. しびれは少ない
    4. 屈曲変形
    5. 消化器症状 など


ほかにも腰痛の病名、原因はあるものの、原因が特定しきれない腰痛、非特異的腰痛の患者のほうが85%と圧倒的に多く、病院に行っても原因がわからず、そのまま帰される患者も少なくない。そのような患者に対しても、どのようにすれば改善できるかをちゃんと指導できるかが、今後の課題である。

腰痛の分類

重篤な脊椎病変の可能性、神経根性疼痛、非特異的腰痛とある。
重篤な脊椎病変の可能性に馬尾症候群がある。

  • 馬尾症候群
  • 脊髄神経の末端にある馬尾神経が圧迫されて起こる症状。
    • 馬尾症候群の症状…臀部周囲の感覚低下(サドル麻痺)、尿閉、尿失禁、便失禁、(膀胱直腸障害)、足首の反射消失、性的な反応性の低下(勃起障害など)

これらの徴候が見られる場合は受診を勧める。

  • 危険な徴候:レッドフラッグ
  • 20歳未満または55歳を超えて症状が出現、最近の激しい外傷歴、一定で進行性に非機械的な疼痛、胸部痛、悪性腫瘍の既住歴、ステロイド剤の長期使用、薬物乱用、免疫抑制、ヒト免疫不全ウイルス、全身的な体調不良、原因不明な体重減少、広範な神経学的症状、構造的変形、発熱 など。

該当する場合、重篤な疾患の有無を確認する必要がある。

  • 注意する徴候:イエローフラッグ
  • 腰痛についての不適切な態度と考え方(例:腰痛は有害であるという考え方、受動的な治療への大きな期待)
  • 不適切な疼痛行動(例:恐怖回避行動、活動性の低下)
  • 仕事関連の問題または補償問題:腰痛が治らないほうが都合がいい(例:仕事満足度の不足、労災、交通事故)
  • 情動的な問題(例:抑うつ、不安、ストレス、気分障害の傾向、社会交流の離脱)

腰痛の慢性化、職場復帰の遅延、再発率を高める危険因子。

  • レッドフラッグやイエローフラッグに該当しない腰痛
  • たいていは自然経過で治る。

腰痛症の治療

腰痛症では一般的に、しばらく安静にする、しっかり筋肉をつける、体重を減らすとよいなどと言われているが、実際には何が効くのか。
理学療法診療ガイドラインに科学的に治療効果証明された理学療法介入の推奨グレード分類がある。

  • A:行うように勧められる強い科学的根拠がある
  • B:行うように勧められる科学的根拠がある
  • C1:行うように勧められる科学的根拠がない
  • C2:行わないように勧められる科学的根拠がない
  • D:無効性や害を示す科学的根拠がある
  • 上記の5つに分かれている。

腰痛症の推奨グレード

  • 推奨グレードA
    • エアロビックエクササイズ

    ¹ 慢性的腰痛に対するエアロビックエクササイズは、疼痛や機能障害、恐怖回避を改善させ、長期効果も有する。

    ² 慢性腰痛に対するフィットネスプログラムは、腰痛関連機能障害や自己効力感、歩行距離を優位に改善させ、6ヵ月後、2年後まで持続する。

    • 集学的リハビリテーション

    ¹ 多方面からの治療アプローチ

    ² 発症6週間までの非特異的腰痛では、職場介入(職場環境の評価、職業内容の適正化、個々のケースに対する管理など)が復職に効果がある。

    ³ 慢性腰痛者では、一般的なリハビリテーションよりも機能回復、痛みの軽減に効果的。

    ⁴ 概ね欠勤予防に効果的

    • 認知行動療法

    ¹ 認知(物の感じ方や考え方、気づき)に働きかけることで、ストレスにうまく対応できる心の状態を作る。

    ² 亜急性から慢性の腰痛患者では、12ヵ月後の痛みの程度と就労状況の改善に有効。

    慢性腰痛患者では痛みの程度、活動性、不安感を改善させ、腰痛による欠勤を減少させる。

  • 推奨グレードB

    • 段階的運動負荷
    • 筋力・筋持久力強化運動
    • ストレッチング
    • 脊柱安定化運動
    • マッケンジー療法
    • 物理療法(温感療法、干渉波療法、パルス電気刺激療法、レーザー治療)
    • 徒手療法
    • マッサージ

  • 推奨グレードD

    • 腰椎牽引
    腰椎牽引が有効とされる研究結果はない
    • 安静にする

      ベッド上の安静臥床は、回復を遅延させるだけで治療効果はない。
      普段の生活活動レベルを維持することが重要
      外的要因(ぶつけるなど)がある場合はその限りではない。2、3日ほど安静にするとよい。

おすすめの運動

非特異的腰痛がある方、痛みはないが腰痛予防をしたい方は、腰椎への負担が少なく、腰部周辺の筋力強化ができる運動がよい。
腰部への負担は3000N(ニュートン)までがよいとされている。よく行われる腹筋運動:上体起こしは腰部への負担が3300Nを超え、続けると椎間板を痛めるリスクが高まる。

  • キャットキャメル(準備運動)

    • 脊柱全体の屈伸を行う
    • ゆっくり8回程度
    • 息は止めない
    • 最終可動域まで行う必要はない


  • カールアップ

    • 片膝を立てる
    • 両手を腰に後ろに入れる:自然な腰椎の前弯を保つ
    • 頭と肩を少し持ち上げる5秒間キープ
    • ゆっくりと下ろす

    (頭は頷かない)


    • できる方は片手を伸ばし少し上げながらやると、なお効果的である

  • サイドブリッジ

    • 片肘で支える
    • 膝と足を床につけたまま、腰を持ち上げる
    • 体感と大腿が一直線になる
    • 5秒キープ

    • できる方は脚を延ばし、体幹と足が一直線になるようキープすると、なお効果的である

    • できなかったら、横になり足を持ち上げるのも良い

  • バードドッグ

    • 四つん這いになり、片手若しくは片脚を持ち上げる
    • この時、持ち上げる、下ろす、を繰り返すのも良い


    • できる方は片手と対側の脚を持ち上げる
    • この時同じように上げる、下ろす、を繰り返すのも良い

腰部へのセルフケア:日常生活での注意点

上記のような運動も大事だが、時間としては30分程度である。
残りの23時間30分をどのように過ごすかが、腰痛予防のカギである。

  • セルフケアのポイント:腰部に強い曲げの力をかけない
    • 腰椎の生理的なカーブを維持する
    • 屈曲姿勢での作業を避ける
    • 腰部に近い位置で作業する
    • 腰部のみを支点にしない
    • 長時間の同一姿勢を避け、最低でも30分に一度は休憩をとる
    • 反復動作を避ける

このようなことを心がけるのが、腰痛の軽減、腰痛予防につながる。

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