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認知症について

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講師紹介

森山 泰 先生
精神神経学会専門医
老年精神医学会専門医
医学博士
駒木野病院診療部長・高齢者医療センター長。

日時

平成26年7月15日(18:30~20:00)

会場

日本生命八王子ビル 研修室

認知症について

老年期におきる精神障害①うつ病

 老年期の特徴として、愛着を持っていた人物を喪うこと、健康・身体的活力を失うこと、生活習慣や仕事、地位、役割を失う機会が高齢者にはたびたび訪れ、喪失の時代となる。孤立化しやすく精神障害が起こりやすい。
 うつ病は誰もがなりうる病気である。さまざまなタイプ、重症度があり対処法は多岐にわたる。自然によくなることもある一方で、重症例では再発、遷延化することもある。悲しみとうつの違いは、一時的に泣いたりするのは悲しみで、うつは未来永劫続く憂鬱感や、悪化すると泣くこともできなくなる。2週間以上眠れない、「死」を考え続ける、閉じこもるなどの症状が出たらうつ病が疑われる。メランコリー型うつはストレスを背負い込みやすい性格の方が頑張りすぎてなってしまう。しかし本来はきっかけがなく突然なるのがうつ病である。躁うつ病のうつ状態は治りにくい。難治性うつでは双極性うつ病が多い。老年期うつ病は喪失体験、身体疾患、脳の血管障害が関与している。不安焦燥感が目立ち、家の中をうろうろ動き回ったりイライラしたりする。心気的になりやすいため身体状態へのこだわりや悪い病気ではという恐怖が出てくる。アパシー(意欲が低下した状態だが抑うつ感・精神的苦痛が表に出されにくい)とは異なる。
 うつ病の治療には休養、環境調整、生活リズムを整える、適度な運動、抗うつ薬や睡眠薬による薬物療法、認知行動療法がる。自己治癒力を高める取り組みが大切。中程度以上には抗うつ薬、認知行動療法が有効である。

老年期におきる精神障害②妄想性障害

 妄想とは、まったく現実的ではない信念のこと。変わった考えを持つ人はたくさんいるが、普通は自分の考えは少数派の考えだと自覚し、一般的にはそう考えないのだとわかっている。「妄想」は、もっと頑固で信じて疑わない。妄想で多いのは統合失調症である。統合失調症の妄想は奇異で了解不能な内容のものが多い。20代、30代で原因もなく発症する。
 高齢者妄想性障害で多い兆候として、記憶障害によって物を置いた場所を忘れることで、誰か(嫁、ヘルパーなど)に盗られたと信じ込み被害妄想を向ける物取られ妄想や、配偶者が浮気をしているなどと激しく責めたてる嫉妬妄想がある。環境調整と適切な対応(否定も肯定もしないのが原則)と薬物療法で対応する。

老年期におきる精神障害③せん妄

 せん妄とは意識障害でもあり、軽度から中等度の意識混濁に加え、幻覚・妄想・精神運動興奮を呈する状態である。原因の早期診断と適切な治療により改善できるが、見逃されていることも多い。夜間の興奮を翌日覚えていなかったり、食欲不振を伴う。薬物、身体疾患によることが多く、原因の治療が大切である。原因として、治療薬によるもの、感染症、脱水・栄養障害、脳血管性障害、心血管系の障害、外傷がある。せん妄を起こしやすい医薬品は、薬局でも手に入る鎮痛解熱剤・H2ブロック剤(胃薬)の場合が意外と多い。治療法としては原因疾患の治療、環境の調整・睡眠障害の改善、薬物治療がある。

老年期におきる精神障害④認知症

 認知症とは、いったん正常に発達した知能が、後天的な脳の器質的障害によって慢性的に低下し単身生活が困難になる状態である。妄想、徘徊、興奮など様々な精神症状・行動障害を伴う。認知症をきたす疾患にはさまざまなものがあり大部分を占めるのは変性疾患と脳血管障害(脳卒中)である。変性疾患であるアルツハイマーはアミロイドβというゴミが脳に溜まっていく病気である。アルツハイマー型認知症は加齢現象ではない。認知症は90歳以降では羅患率が下がるので加齢現象では説明がつかない。85歳前後で羅患しやすい病気である。認知症は検査だけでは診断できない。健忘の評価は重要だが、本質は社会で一人でくらせなくなり、介助が必要になる病気である。診断には生活状況を知ることが極めて重要。ただの物忘れではなく、生活に直結する通帳、鍵、印鑑のしまい忘れや置き忘れ、買い物、家事、金銭管理、季節柄にあった衣類の選択、服薬管理、火の管理などができないことを大事な兆候としてみる。人の名前が出てこないのは加齢現象である。新しい場所に旅行するのが困難になると認知症の境界領域になる。金銭管理、買い物が困難になると軽度の認知症である。症状が出てから寝たきりの重度の認知症になるまでに8年程かかると言われている。アミロイドβは発病の20年程前から溜まると言われている。
 アルツハイマー型以外の認知症として、血管性認知症がある。これは脳卒中(麻痺、失語)のあとに急に認知症になる。前頭側頭型認知症は健忘より人格変化(盗み、性的脱抑制)などが目立つ認知症である。アルツハイマーより激しい行動障害と急速な進行を呈し、介護負担も増大する。レビー小体型認知症は幻視等の精神症状、転びやすさ、症状の日内変動、パーキンソン症状などを伴う特殊な認知症であり、アルツハイマー病と比べて進行が早い。
 認知症の治療として、原因の明確な認知症に対してその原因を取り除く原因療法がある。また、脳をリハビリし、脳と心にさまざまな刺激を与えることで、認知症の症状や行動障害を改善させたり、機能を維持する。
 家族は怒らない、理屈で説得しないことが大切。介護保険の利用(デイ・サービス、ショート・ステイ)する。特に入浴など身体的負担になるもの。罪悪感、周囲の目などあるが、医療、福祉をうまく利用することが必要である。在宅か施設かは本人の病状と介護力のバランスで判断する。最近は核家族化、老々介護、虐待が問題になっている。不眠、尿失禁は特に疲れやすく介護疲労につながる。また、男性が介護を行う場合、女性に比べ虐待に至りやすい。

認知症の予防

認知症の発病と発症は違うので認知症の予防としては発病させないor発病しても発症させないことを目指す。アルツハイマー型認知症の場合、アミロイドβが脳にたまった状態が発病、認知症状が出た段階が発症である。アミロイドβが多数たまっていても(発病していても)、活発な精神活動を維持することで認知症状が発症しないことが多い。
脳は血流、脂肪が多いので酸化ストレスを受けやすい。酸化とは燃焼、呼吸、錆などに関係し、生命はこれのおかげで進化できた。しかし酸化の弊害として活性酸素、フリーラジカルなど身体の錆のようなものが生じ、これを酸化ストレスという。認知症の発症を予防するために生活習慣を正す。食事や運動、知的活動、社会的交流をすることが重要である。
 病気の一歩手前の虚弱状態が最近注目されている。サルコペディアとは動かなくなることで筋肉が弱り転びやすくなったりする。サルコペディアの結果、認知障害や骨粗しょう症などを合併しやすくなる。筋減少に肥満を合併した状態(サルコペディア肥満)ではさまざまな合併症を生じやすい。

終末期医療

終末期とは、死に向かう過程である。発熱を繰り返す、むせやすい、食べられないなどの症状がある。前終末期で半年、中終末期で数週間、後終末期で数日で亡くなるとされている。延命治療の問題が常に関与している。終末期の本人の思いは苦しみたくない、家族に迷惑をかけずに死にたい、一日でも長く生きていたいなどがあるが、重度の認知症の場合医師と家族が話し合って方針が決まる。しかし場合によって妻子が親戚の目を気にし、本人の意思と違う決断をすることがある。
 尊厳死と安楽死の違いは、尊厳死とは「自らの傷病が不治かつ末期に至ったとき、インフォードコンセントに基づく健全な判断の下、自己決定によりいたずらに死期を引き伸ばす延命措置を断り、自然の死を受け入れる死の迎え方」であり、安楽死とは「第三者が薬物投与など積極的方法で死期を早めるもの」である。
 終末期の問題として、苦しみたくない、家族に迷惑をかけずに死にたいという思いもあるが、日本人は死の問題を議論したがらないが、元気な時に妻子や特に普段交流の少ない兄弟に思いを述べておくことが大事である。


参加者の声
 認知症をはじめ、老年期の病気についてお話を伺う良い機会となりました。
 認知症にならないために、気をつけることも貴重な情報でした。

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