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動脈硬化はどうして起こるのか、動脈硬化とガンの類似点


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講師紹介

宮川 髙一先生
医療法人社団ユスタヴィア 理事長
多摩センタークリニックみらい 院長
ご専門:糖尿病、脂質異常症、高血圧症、高尿酸血症

日時

平成24年9月19日(18:30~20:30)

会場

八王子市学園都市センター 第二セミナー室

動脈硬化はどうして起こるのか、動脈硬化とガンの類似点

動脈硬化はどうして起こるのか

実は皮膚が若く見える人は動脈も健康、糖尿病は皮膚の老化も進めるが、動脈硬化も進めてしまうから。
動脈はコラーゲンでできていて、やわらかい。弾力によって血液をうまく流している。“人は動脈と共に老いる”と言うように年を取ると血管が硬くなる。動脈に脂の滓がたまって硬くなることを動脈硬化という。
悪玉コレステロールLDLは、本来悪玉ではなく肝臓から全身の細胞にエネルギー源・細胞壁の材料として血液に乗って送られ、全身の細胞で消費される。余ったLDLは善玉コレステロールHDLが肝臓に運んで胆汁に変えて、消化液として腸に送られ処理される。ところが、LDLが多すぎて使いきれないとHDLが回収しきれないで、血液中に残り酸化して古くなるLDLが古くなると、加齢によりできた動脈の傷から動脈の壁の中に沁み込んでしまう。
この異物として動脈の壁の中にある酸化したLDLを白血球(マクロファージ)が食べて処理をする。けれど、脂は消化できないので食べ過ぎた白血球が死んでしまう。そこへ脂を包んでしまう作用が起きる。これを繰り返しているうちに、塊がどんどん大きくなる。数年かけてぶよぶよの塊ができる。ぶよぶよの塊に流れている血液の圧力がかかることによってあるとき亀裂が入る。その亀裂を塞ごうとしてその周りに血液を固めてしまう。その結果血管が詰まってしまう。コレステロールの塊に亀裂が入ってから血液が固まって血管が詰まるのは一瞬で起きる。

心筋梗塞は朝起こりやすい

 狭心症の患者は、動脈の狭窄80%以上、症状が出るので治療を受ける。心筋梗塞の人は狭窄50%ぐらいこのくらいでは症状が出ない。
例えば動脈硬化が進んでいる人が冬に大酒を飲んで寝る。大酒をすると寝汗をかいて血液の濃度が高くなる。そうでなくても朝は血が固まりやすい、そして朝は体を覚醒させるために血圧が高くなる寒さもこれを加速する。そこで、喫煙により血管が急に収縮したり、駅まで走るなど血圧が急に上がると、心臓の冠状動脈に溜まったコレステロールの塊に亀裂が入って、そこで血が固まって一気に冠状動脈をふさいでしまう。これが心筋梗塞。

動脈硬化の危険因子は

  • LDLコレステロール: 多いLDL、少ないHDL
  • 動脈の傷: 喫煙、高血圧、糖尿病
  • 固まりやすい血液の状態: 血液凝固異常

動脈硬化は多危険因子症候群の倍々ゲームで危険度が変わる。原因が重なって起こる病気なので何か一つ数値が高いより、いくつもの危険因子をそれほど高くない数値で複数持っているほうが危険である。

メタボリックシンドロームと動脈硬化

代謝の異常:高血圧・糖尿病・高中性脂肪血症・上半身肥満の組み合わせ→心筋梗塞と動脈硬化
女性に多い:洋ナシ型の体型(腰や四肢が肥っている)は皮下に脂肪がたまりやすく病気にはつながらない。
男性に多いリンゴ型の体型(四肢が細く、お腹だけが出ている上半身肥満)は内臓に脂肪がついていて、脂肪細胞がインスリンの効きを弱くする悪い物質を出している。高脂血症、糖尿病、高血圧になりやすい。
人は将来の飢餓のために脂肪をため込むので、痩せるのは大変です。
動脈硬化を改善するためには体重を減らす必要がある。自分の体重の5%を減らせば薬を使ってうまくコントロールできる。薬を使いたくない場合は10%減らす。それ以上痩せる必要はない。
痩せれば血管のコレステロールの塊から脂が抜けて、硬く小さくなり、血管が広がり、血の塊ができなくなる。

高血圧の危険度

高血圧では脳梗塞や脳出血の険度が一番高くなる。血圧は塩分だけで高くなるわけではない。3つのタイプがある。それぞれによって治療法が異なる。
         最高/最低血圧
 【メタボ型   130/110】最低血圧が高い→痩せる
 【塩型     160/100】両方高い→塩分制限
 【動脈硬化型 180/ 70】最高血圧が高い→一番難しく、動脈硬化全体の管理が必要

仮面高血圧
病院で血圧を測ると低く、家だと高い仮面高血圧だと病院の検診で見逃がされる可能性もあるので注意しないといけない。なぜこうなるのか。朝は起きて体が動く準備をするので血圧が高くなるが病院に行く頃には下がってしまう。

朝正確な血圧を測ることが重要である。

  • 起床後1時間以内
  • トイレに行った後、水や薬を飲む前
  • 暑くも寒くもない部屋で
  • 1回目の血圧を記録して目安にする 計り直し・平均を記録はしない

自分で血圧を測り、朝高すぎず、昼低すぎないように薬でコントロールをする。
傾向的には早朝の血圧が高い人が脳卒中を起こしやすい。昼間運動やストレスで血圧が高くなってもあまり影響はない。


糖尿病:生活習慣病とは言い難い

食べすぎるから(生活習慣)糖尿病になるわけではない。遺伝的に、普通に食べていても太りやすく糖尿病になりやすい人がいる。生活習慣病とは言えない。
β3アドレナリン受容体異常症:基礎代謝が低く、エネルギー消費が少ない。太りやすく、お腹が空きやすい。飢餓の時代には大変有利で生き残りやすい優れた遺伝形質だった、しかし現在の食べ物が豊富で激しい肉体労働をしない生活環境では、太りやすく糖尿病になりやすい。むしろ生活環境病と言える。
日本人では4人に一人このような遺伝子を持つ。
この遺伝子を持った人は

  • 通常の人は、食後直ちにインスリンが出るので血糖値は常に一定のレベルを保つことが出来る。
  • インスリンは血液に糖が多いと、脂肪として蓄え、また糖をエネルギーとして使えるようにする。
  • しかし、糖尿病になりやすい遺伝子を持っている人は食事の後、インスリンの出が悪いので異常に血糖値が高くなる
  • すると高血糖をきっかけにインスリンの過剰分泌が起こる。過剰にインスリンが反応して血糖が脂肪に変わり、逆に低血糖になる。食後3時間後ごろ強い空腹感がある→食べてしまう。:太ってくる。この時食事を制限すれば糖尿病を発症しない。
  • 長期間低血糖時に間食をする生活を続けていると、ため込んだ体脂肪からインスリンの効きを悪くする物質が出て、日常的にインスリンを無駄遣いするので疲弊してインスリンの分泌が弱くなる
  • すると血糖が高い状態なのに、インスリンが出ないので細胞は糖をエネルギーとして使えない。栄養不良で日常的に空腹になる。:インスリンが出ないので、いくら食べても糖を脂肪に変えることが出来ず尿に垂れ流しになるので痩せてしまう。2型糖尿病は最大体重の後、減り始めた時に発症する。
  • 血管を砂糖漬けにするので、血管がもろく・傷つきやすくなる。これが様々な病気につながる。

飢餓の時代有利だった遺伝子が現代の高エネルギー食・低労働環境により起こす病気:生活環境病
このような生活環境病の例は、ほかにも

  • 省エネ型で栄養をため込む遺伝子:飢餓に強い:お腹が空きやすい・肥満・糖尿病
  • 尿酸をため込む遺伝子:栄養が少なくても精神が活発:高尿酸血症・痛風
  • 塩分をため込む遺伝子:人類が生まれたアフリカの塩分の少ない食事・高温に耐える:高血圧

がんとは

 がんは遺伝子の病気である。DNAはあらゆる細胞(目・筋肉・血管などなどに)に変わることが出来る情報を持っているが、一番根本的な命令は、卵子の状態で、「細胞分裂して増えろ」という命令
このDNAが何らかの原因で変異をきたし異常な細胞になって止め処なく増えてしまう。
自分自身の遺伝子による病気という意味で、動脈硬化と同じ

発がんには、2段階ある

  • 起始段階:正常細胞が前がん状態の細胞(起始細胞)に変化する段階
  • 促進段階:起始細胞ががん細胞になるまでの段階

タバコはがんを増やすのではなく、体の中にできたがん細胞を悪化・促進させる働きがある。がんを作り出す力が強く喫煙していると平均して10年命が短くなる。
しかし、がん促進効果は禁煙後半年でなくなり、タバコを止めた効果がはっきりと出てくる。
タバコは発がんだけではなく、血管を傷つけ動脈硬化・心筋梗塞・脳卒中・糖尿病の原因となり、わが国で、タバコを原因とする死亡者は年間11万人(男性9万人、女性2万4千人)にのぼる。

がんは急にできるわけではない。1個のがん細胞が早期がん:約1gになるまでに30回の分裂・9年が必要。がんの大きさが2倍になるのに100日。早期がんから死に至る末期がん(数kg)になるまでは10回の分裂3年しかない。がん細胞は分裂して成長すればするほど悪性になる。

がんの原因と予防

人の体には60兆個の細胞があり、確率的に常にがん細胞はできているが、これががん化するかどうかは、

  • 遺伝子の変異を起こす刺激の量
  • 発生したがん細胞を殺してしまう自分の免疫力

によって決まる。

遺伝子の変異を起こす刺激の抑制や免疫能力の向上をすると予防につながる。

糖尿病の薬:メトフォルミンはがん化の刺激を減らし、がん細胞をたたく免疫を増やす。

老化と病気

動脈硬化もがんも老化が深く関係してくる。老化は個人差があるのでその差を予防することが病気の予防につながる。人類の高齢化と現代社会の刺激が生活環境病を作る。人類進化の方向との歪みによって生ずる疾患といえるのではないか。一つ一つの病気を分けて考えるのではなく、無病息災であって毎年健康診断を受けるなどの少しの気遣いで予防することができる。

質疑応答

Q:朝血液が固まりやすいというが、朝水を飲むとこれを解消できるのか
A:朝一番で水をコップで2杯ほど飲むと非常に効果がある
血が濃いのは単に脱水ではなく血を固まりやすくするホルモンが出ている。水を飲むと体が目覚めこれが解消される。さらに、食事をしっかりとると消化のために副交感神経が働くので早朝高血圧を下げることが出来る。朝と昼をしっかり取り、夕食を軽めにするのが理想。
Q:がんの原因に食事とあるが
A:一番は食べ過ぎ、体内でインスリンが多く作られ過ぎるとがんを作る。注射などで外から入れるインスリンは問題ない。その次はある種のカビや、焦げた物には発がん性がある。非常に熱い物は食道や胃に刺激を与えがん化することがある。同じような物を食べ続けるのは確率的に発がんを促す危険がある。いろいろな物を食べるのが良い。三番目は食品添加物や食品の中の発がん物質など。やはり一番は食べ過ぎ
多すぎるインスリンはアツルハイマー認知症にも関係があり、糖尿病の患者は通常の3倍ほど認知症になるが、糖尿病による認知症は進行が遅い。その他の遺伝による認知症もある。
Q:起床時の血圧を測るとき水を飲む前が良いのか
A:早朝の一番高い血圧を計る必要があるので、トイレに行った後、水や食事をとる前が良い
早朝の血圧が高いのが危険であり、日中運動やストレスにより血圧が上がっても危険が少ない。
Q:コレステロールの動脈硬化への影響は(HLD)善玉コレステロールと(LDL)悪玉コレステロールのバランスか
A:肝臓から全身に送られる方向のLDLはエネルギーや細胞の材料として重要:LDLの量はこれを計っている。HDLは余ったLDLを肝臓に回収している量を計っている。HDLが60以上の人は十分にLDLが肝臓に回収され便に排出されていて、HDL35以下の人は、ほとんどのLDLが、血管の壁に捨てられている。
Q:糖尿病でインスリン注射を一日4回と指導されているが、通常の生活では2回が限度
A:確かに3回以上の注射は生活の快適性を落とす。4回注射しなければならない人が2回にすると血糖値が乱高下してしまう。2型糖尿病の場合2回の注射に例えばDPP-4阻害薬を組み合わせることにより血糖値をうまくコントロールするのが糖尿病専門医師の腕の見せ所。担当医と相談されたい。
Q:糖尿病の治療として、炭水化物を取らない療法はいかがか
A:インスリンを使っている人は炭水化物を取らないと低血糖を起こすので慎重に行う必要がある。2回注射をしている人は朝と夕方は炭水化物をとるべき、
炭水化物を取らないでいると血糖値は下がる。しかし、ご飯の代わりにステーキを食べろという人がいるが、特に動物性脂肪は動脈硬化の原因となり、取りすぎは危険。植物油は大丈夫。
タンパク質を取りすぎると腎臓に良くない。
炭水化物を取らない療法は短期間に緊急対策として行うのが良い。血糖値が改善してきたら、炭水化物は適量採るべき。人間はもともと草食で、あとから肉食をするようになったので、バランスの良い食事が良い。明らかに体に良くないのは砂糖。
日本の糖尿病食は昭和30年代、肉魚が食べられない時代に決まったので、炭水化物が多すぎる。だから基準よりは炭水化物を少なめにするのが良い。



参加者の声
大変わかりやすい説明で今後の健康管理の上でとても参考になった。
ガンの原因がよく分かりました。タバコをやめてよかったと思いました。

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