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うつとの接し方と回復について~家庭や職場のうつ、うつからの復職~


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講師紹介

加藤 元一郎先生
慶應義塾大学医学部精神神経科 准教授

日時

平成24年8月29日(17:00~19:00)

会場

日本生命八王子ビル 八王子営業所 研修室

うつとの接し方と回復について

うつ病の実態

 うつ病の人は確実に増加している。自殺者の9割はうつ病、うつ病の増加に伴い精神疾患による生産性の低下を含めて年間11兆円と多額の社会的コストがかかっている。

うつ病の時代による変化

 昔と今でうつ病が大きく変わってきている。10~20年ほど前は中高年期の人がうつ病になることが圧倒的に多かった。うつには「両極性」と「単極性」があり、両極性は躁と鬱を繰り返すので明らかな精神病であるため病院でしっかり治す必要がある。両極性の発生率はあまり変わっていない。
単極性のうつ病が増えている。うつには精神症状と身体症状があり、午前調子が悪く夕方になると調子よくなる日内変動のある軽躁期がある人もいる。昔はまじめで仕事人間で、責任感が強い人がなりやすかった。
【従来のうつになりやすい性格】

  • タイプ①:執着性格、完全主義、自己点検型、秩序の中にいるのを好む、役割に忠実、徹底的にやりすぎる、柔軟性の欠如
  • タイプ②:協調性がある人、他人への配慮を重んじる、going my wayでない、すなわち他人への評価を気にしすぎる、気の弱さ、自由さに欠ける。

【初期症状】
 休んでも疲れが取れない、楽しめない。
【状況因】
 職場変更、転職、転部、中間管理職、上司交代など。ストレスなどがきっかけで反応としてうつになる。
【治療】
 「病気ないし病的状況であることと治ることを告げる」薬物療法、休養。大事なのは休ませる、励まさない、離婚や退職など決断させないこと。職場復帰はゆっくりと行う。周りの対応として、職場や部署の変更、症状のゆれ、軽度の残遺症状の理解が必要。
20年ほど前からアパシー・シンドローム(逃避型・退却型うつ)が増加した。従来のうつ病とはちがい、会社にいるときだけ調子が悪く、家に帰ると元気になる。従来のうつ病は会社でも家でも調子が悪い。アパシーとは情熱がなくなってしまったことを意味している。このタイプは内向的な人がなりやすい。
10年ほど前から現代型うつが増えてきた。抑うつ状態があっても職場に執着して休職を拒むが、仕事上のパフォーマンスはほとんど発揮できない。次第に本人も自己達成感が無くなって、人生の目的を失ってしまう。
従来のうつ病の方に、アパシー、現代型のうつ病患者が加わり、うつ病患者が増加している。

うつ病を引き起こす原因

 アルコールや薬物による中毒性のうつ病、次にガンや心臓病、ホルモン異常などの身体的な病気によるうつ病、脳卒中など脳の器質性うつ病、これらの発生割合は昔から変わらない、最近増加しているのは心因性精神障害や内因性精神病。心因性精神障害は精神に動揺を与える明らか外的原因があってそれによっておこるうつ病、内因性とは原因不明ということであり、内因性精神病は原因不明だが病気である状態である。
抑うつ状態と抑うつ気分は違うものである。抑うつ気分は悲哀感や不安感、イライラ感。意欲の低下などが挙げられるが、うつ状態ではなく気分が悪い状態で誰でもなる。うつ状態は抑うつ気分にプラスして、全身倦怠感、不眠、食欲低下、頭痛、肩こりなどの身体的な症状も現れる。また、自殺願望、不良な社会適応が起こる。抑うつ気分と抑うつ状態を分けて考える必要がある。
また抑うつ状態と内因性うつ病とも分けて考える必要がある

  • 身体性うつ病:脳や身体的な病気によるうつ病
    • 器質性うつ病:脳卒中などを原因とする
    • 症状性うつ病:身体的病気が原因
  • 分裂病性うつ病(非定型型精神病)
  • 内因性うつ病:原因が分からないうつ病(本当のうつ病)
    • 双極性(両極性)うつ病:そう状態とうつ状態を繰り返す
    • 単極性うつ病
    • 退行期うつ病
  • 心因性うつ病:精神に動揺を与える外的原因によるうつ病
    • 神経症性うつ病
    • 疲憊性うつ病
    • 反応性うつ病

うつ状態を見つけるには、

  • 本人はうつ状態だと自覚がない、眠れない、疲れが取れない・倦怠感、首・肩のこりなどは、自覚があるが、
  • 意欲・興味の減退、仕事能率の低下、抑うつ気分、不安・取り越し苦労などは、周囲の人が聞き出して初めて発見されることが多い。

 職場でも、部下を持つ上司は部下のうつ状態を発見するため、本人に自覚がないことを知っておく必要がある。「悲しむこと」は人間の特性の一つであり、そこには意識がある。死別などの悲しみはうつではなく、悲しむことで何かを忘れ、次へ進むためのもので、当たり前の反応。

抑うつ病状態の分類

抑うつ状態は大きく分けて3つある。

  • 大きなストレスが原因の「抑うつ体験反応」(PTSD:心的外傷後ストレス障害)
  • 小さなストレスでもへばりやすい「抑うつ神経症」(ノイローゼ)
  • 原因がわからない身体疾患に近い脳の病気「(内因性)うつ病」

 なぜ識別するかというと、それぞれに合った治療方針があり、間違った治療をすると復職できなくなってしまう。「抑うつ体験反応」と「抑うつ神経症」はうつ病ではなく、薬を飲んで、しっかり休んでも治らない。仕事上のストレスが神経症を引き起こすので、休んでも復職できず、復職のためのしっかりした支援が必要となる。

本題の「内因性うつ病」にも、

  • メランコリー親和型:従来の責任感の強い中高年がなるうつ病、薬物治療としっかりした休養で、「無理しない生き方」を見つけ職場復帰ができる。
  • ディスチミア親和型:現代型の、もともと仕事熱心ではない青年層がなる。どこまでが病気で、どこからが本人の生き方なのかが不明確で、職場復帰が長引く。

職場での対応

  1. 常時の部下の様子をよく観察する。(ベースライン)
  2. いつもと違う部下の様子に気づく。(変化)
  3. 声をかける。
  4. 相談に乗る。
  5. 職場で抱え込まず、人事部などとの連携をはかる。
  6. フォローと経過観察。

 仕事のストレスや仕事外のストレスが原因になる。家庭でのことや仕事外でのストレスが意外と大きい。ストレス反応に気づくことが大事。変化に早く気づくことで早く対処でき復帰しやすくなる。毎日コミュニケーションをとることで予防につながる。「挨拶・会話・説明」をする。部下の希望を聞いてみたり、上司として対応策を提案する。上司が慌てて病院に行かせたりするのではなく、まず人事部等と上司が連携をはかり医療機関と相談する。本人だけ行かせると医師に本当のことを言わない可能性があるので上司も一緒に行き、その後のフォローもしっかりする。

医者の「うつ病の急性期治療の7原則」

  1. 軽くても治療の対象となる「不調」であって単なる「気の緩み」や「怠け」ではないことを確認する
  2. 早い時期に立ち直り回復に向かうために、心理的休息のとれる体制を整える
  3. 予想される治療の時点を告げる
  4. 治療の間、自己破壊的な行為(自殺など)をしないことを約束してもらう
  5. 治療中、症状に一進一退があることを繰り返し確認する
  6. 人生に関わる決断(退職、離婚など)は治療終了まで延期する
  7. 薬に関わる事項を、服薬によって生じる副作用を含めきちんと説明する。

 これらを周りの人たちが知っておくことも大切である。

復職のための支援システム作り

 メンタルヘルス不調者の職場復帰における困難性としては、うつ状態は単一の疾患ではなく、対応方法も一つではない。また、「うつ状態の寛解(回復)≠仕事が可能」すなわちうつ状態が収まっても仕事上のパフォーマンスは極めて低下している「早すぎる復職」は本当の職場復帰にならない。そして、主治医判断主導の「復職」を進めると本人にも職場にも過剰な負担がかかってしまう。支援を行う人々にとって、メンタルヘルス不調は見知らぬものであり、どのように対応して良いのかわからずそこには「不安」が伴う。
 現状は極端に配慮に欠けるか、腫物扱いかである。新しい職場復帰支援では、周囲が仕事に戻してあげるのではなく本人が復帰に取り組むのを支援する。そのために復帰支援プロセスの標準化と可視化をさせる。怪我をしたスポーツ選手に例えて、けがが治ってから、しっかりとリハビリをしてレギュラーに戻れるように促す。復職リハビリを拒否したとしても本当にそれでいいのかしっかりと話し合う。「トライアル出社」とは病気の状態と会社の状態のどちらもが整っているかを双方で確認する。そして、6か月後にどのような業務に就いてもらうか(役割期待)をできるだけ具体的に検討し、その求められる「役割期待」から逆算して「トライアル出社プログラム」を作成する。目標達成をより確実にするために、段階的な課題を設定し、6か月後の目標達成を目指して2か月ごとに就業制限緩和という形でマイルストーンを設定する。忘れてはいけないのは、パフォーマンスと病気の間にはギャップがあるということ。そのギャップをどのように埋めるかが重要である。


参加者の声
事例を交えての講義で勉強になりました。原因も数多くあり、また復職の対応も様々であり判断が難しいことを痛感しました。
身近でありながら、現実的解決が難しい問題と感じます。大変参考になりました。
日頃のコミュニケーションが大切だと思いました。そのためには社員旅行なども必要なのかもしれないと感じました。

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